2年前、父と最後の釣り旅に出た。父は釣り好きで、子どもの頃、毎夏、湖に連れて行ってくれた。会社員になってからは忙しく、父との時間が減っていた。そんな中、父が「一緒に琵琶湖に行こう」と誘ってきた。父の声に、少し弱った響きを感じ、断れなかった。
早朝、湖畔に着くと、霧が水面を覆い、静寂が広がっていた。父は手慣れた動きで竿を準備し、私は子どもの頃を思い出しながら仕掛けをセット。数時間、魚は釣れず、父と「今日はダメかな」と笑い合った。昼近く、父が大きなブラックバスを釣り上げ、少年のような笑顔を見せた。
その瞬間、父の若々しさが戻った気がした。昼食の弁当を食べながら、父が「家族との時間が一番の宝」と語った。夕方、私も小さな魚を釣り、父に褒められた。帰り道、車内で父が「また来年もな」と言ったが、その冬、父は病気で倒れた。今、父はリハビリ中だが、釣りは難しい。あの琵琶湖の朝、父の笑顔と湖の静けさが私の宝物だ。父の回復を信じ、いつかまた一緒に竿を振りたい。釣りは、父との絆を繋ぐ糸だ。