30歳を目前に、母と一緒に絵画教室に通い始めた。きっかけは、母の「何か新しいことを始めたい」という一言。母は昔、美術教師を目指していたが、結婚と子育てで夢を諦めた過去があった。私は絵心ゼロで、最初は気乗りしなかったが、母の楽しそうな顔を見たくて参加。教室は地元の公民館で、10人ほどの小さなグループだった。
先生は70代の画家で、「完璧じゃなくていい、感じたままに」と教えてくれた。初日は木炭で静物を描いたが、私のリンゴは歪んで笑いもの。母は「味があるよ」とフォローしてくれた。週に一度の教室は、母との特別な時間になった。彼女がキャンバスに向かう姿は、若い頃の夢を追いかけるようで輝いていた。
ある日、母が描いた私の肖像画を見せてくれた。少し照れた表情の私が、温かい色で描かれていた。「これがお前の強さだよ」と言われ、胸が熱くなった。半年後、教室の発表会で、母と私の絵が並んだ。母の花の絵は来場者に褒められ、私は密かに誇らしかった。絵画は、母の情熱を再発見させてくれた。仕事で疲れた日、母の絵を思い出すと、心が落ち着く。
今も教室に通い、母と新しい技法に挑戦中。いつか、母と二人で個展を開くのが夢だ。絵を描く時間は、母との絆を深め、私に表現の喜びを教えてくれた。教室の窓から見える夕焼けは、いつも母の笑顔と重なる。絵は下手だけど、母と過ごすこの瞬間が、私の人生の傑作だ。